東京メトロ日比谷線2番口を出て徒歩約11分、渋谷橋交差点を超えて真っ直ぐ進み、緩やかな坂を登っていくと東京都立広尾高等学校の前に重要文化財としての指定を受けた速水御舟の「炎舞」などを所蔵している日本画専門の美術館があります。本日は「山種美術館」をご紹介させていただきます。
美術を通じた社会貢献を基本理念とする「山種美術館」は、証券会社である山種証券とその創業者である山崎種二氏が蒐集した日本画を中心とする美術品を保存、管理する事を目的として日本橋兜町に開館したのが始まりです。その後、千代田区への移転を経て、現在の場所で開館に至ったのが平成21年の事になります。
昭和41年の開館当時、日本画専門の美術館は全国初の試みでした。日本画は日本における伝統的な様式を取り入れた絵画であり、和紙や絹、木、漆喰などに、岩絵具、墨などの伝統的材料、技法を使って描かれた絵画であり、彩色画と水墨画に大きく分けられます。日本画はその原材料の特性などから、大変デリケートで光や温度や湿度の変化による影響を受け易く、長期間の展示には向いていないという特徴を有しています。このため展示については細心の注意が求められる他、常設が難しいという事があったものと思われます。
「山種美術館」には、明治から現在に至るまでの近代、現代日本画のほか、古画、浮世絵、油彩画など、合わせて1800点を超える美術品が所蔵されています。その中には岩佐又兵衛の「官女観菊図」、椿椿山の「久能山真景図」、竹内栖鳳の「班猫」、村上華岳の「裸婦図」、速水御舟の「炎舞」、「名樹散椿」の6点の重要文化財の指定を受けた美術品も含まれています。また、上記以外にも120点の御舟コレクション、70点を数える可愛玉堂の作品、135点の奥村土牛コレクションのほか、横山大観、下村観山などの近代日本画を支えた画家の重要な作品も多く所蔵しています。
美術館での絵画鑑賞では騒がない、写真撮影をしないなどのマナーを守ることも当然ですが、特に日本画は光や温度、湿度の変化に弱いという特徴があります。このため「山種美術館」では絵画の保護のために温度、湿度を一定に保ち、照度を下げ、常設は行わず年5~6回の展示会で順次コレクションを公開するという運営を行っています。ご来場の際には、この点への十分な理解の上、足もとに注意するほか、季節によっては上着を一枚持っていかれる事などをお薦めします。
マナーを守って日本の伝統芸術を楽しみましょう。