東急東横線代官山駅の正面口を出て徒歩約5分、旧山手通りを横断して代官山交番前の交差点を進むと大正ロマン溢れる住宅と庭園が楽しめる重要文化財があります。本日は「旧朝倉家住宅」をご紹介させていただきます。
「旧朝倉家住宅」とは、大正8年に朝倉虎治郎によって建築された2階建ての木造家屋で主屋と土蔵、車庫等の附属建物が存し、回遊式庭園を有する邸宅です。朝倉虎治郎は家業である白米商を大いに盛り立て個人営業としては東京随一と呼ばれるほどの商家にまで成長させ、その後東京府議会議長や渋谷区議会議長などを務めた人物です。朝倉虎治郎自身は朝倉家の人間ではなく、愛知県碧南の商家の生まれであり小学校卒業後に上京して深川の材木店で働き、頭角を表す働きをしていたところ跡取り問題に悩む朝倉家の眼鏡にかない入り婿という形で朝倉家の養子となりました。この材木店で働いていたときに身に付けた材木に対する知識が「旧朝倉家住宅」でも大変活かされたことでしょう。この木材に対する目利きが「旧朝倉家住宅」の魅力を高めていると言っても過言ではありません。
「旧朝倉家住宅」は大正12年に発生した関東大震災でも倒壊することがなく、関東大震災以前の大正建築を知ることが出来る数少ない建物として貴重であることから平成16年に主屋と土蔵が国の重要文化財として指定を受けるに至りました。現在では文部科学省が所有しており、渋谷区が管理団体となっています。
「旧朝倉家住宅」は、ほぼ全室が畳敷きとなっており、接客や家族のためのスペースは統一の取れた座敷となっていますが、杉の間などは当主であった虎治郎の趣味が活かされた数寄屋造りとなっており、趣味の広さ、深さを感じさせる造りとなっています。
庭園は崖線という地形を活かした回遊式庭園であり、大正時代の作庭の特徴ともいえる石灯篭や景石が多用された庭園となっています。春にはツツジ、秋には紅葉というように季節の移り変わりを楽しむことができます。敷地の面積は約5,400㎡と東京ドームを上回る大きさです。
代官山のヒルサイドテラス一帯は朝倉家が所有していた土地でした。東京中心部での急速な都市開発が進められていくなかで、代官山の環境を活かした緩やかな開発を望む朝倉家の意向に即した形で開発が進められてきた結果、ヒルサイドテラスは優良な環境を備えた街づくりの成功例だと言われるに至っています。
そのような流れの原点ともいえる「旧朝倉家住宅」を見学に訪れてみて大正ロマンに思いを馳せてみるというのは如何でしょうか。